彫刻家 尾崎悟が想い巡るサファリ

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うた

白梅の遠き白さよ 香の中に 今は恋しき 春の訪れ

軒先の ねじれたなびく白煙の 香り届けよ 西方の国

吹きすさぶ 風に歯向かう若桜 己のいのち 永久に続かん

風の香の 春の報せは薄紅の 色に染まりて 今飛び立ちのとき

安らかに 重なり眠る吹きだまり 地を温めて 心おきなく

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調

「月光」 作品27-2

久しぶりに森の中を散歩した。

冷たく濡れた森の地面はしっとりとして

パキパキ、カサカサという冬らしい音をさせずに

その中に私は沈んでいく。

第一楽章は、まるで沼の岸からゆっくりと深まる水深。

冷たい腰が、そして腹が、胸が

しだいに冷えてくる全身が

滑らかで透き通った水に溶けて行く感触のようで。

それはおまえの宿命であると森の王様はくりかえす。

孤独をこれほど心地よく感じたことはない。

第二楽章は、森を抜け、杉の落ち葉の柔らかい林道を

しょんぼりと歩く。

2本の足の長さはいつも同じ

だから歩く歩幅はいつも一緒

同じリズムで今度は地響きをたて

しょんぼりと楽しく、温かく

落ち葉色のツグミが慌てて飛び去り

ほじった痕をしゃがんで覗く。

何をついばんでいたのか‥‥‥

探しても見つからない。

孤独をこれほど辛く感じたことはない。

三楽章は、意を決して走りはじめる。

硬い枝が頬をかすめて血が滲む。

スピード

涙に歪んだ森の色が次々と流れ、飛んで行く。

肺に穴が開いても止まらず

転げても子犬のように起き上がり

どこまでも走る

走る

走る

丘を駆け昇り天に向かって吠える

飢えた狼のように

子を奪われ、怒り狂った母のように

口から、そして背中から

白い湯気が立ち上る

怯えてまた走る

追われているのか

追っているのか

走る

走る

走る

走る

ショパン夜想曲 第7番 嬰ハ短調 作品27の1

ある罪人が長い旅の終りに、神様が住むという深い森に分け入りました。

罪人は世の中でいちばんひどいことをさんざんしてきて、

もうこれ以上ひどいことは無いというくらい悪の限りを尽くしてきて、

最後に残ったいちばんひどいこと‥‥‥

神様を殺しにやってきたのです。

森は穏やかで優しい母のように罪人を迎えてくれました。

森は深くに行けば行く程美しかった。

水は清く花は香しく鳥のさえずり、渡る風‥‥

帰り道も忘れるくらい罪人は安らかな気持ちで歩き続けました。

それまでの罪人の人生は闘い殺し合いの連続でいつも思う事はただひとつ、

次に何を奪うか、誰を殺すか、そんな未来のことばかり。

罪人はそれまでの人生でいちども考えなかった事を考えている自分に気付きました。

「俺はなぜ罪を犯したんだろう?」

歩きながらそのことを考えるうちに、これまで彼がしてきた行いの始めから

ひとつづつ思い出そうとしたのです。

始めてお母さんに嘘を付いた時のこと

始めて盗みをはたらいた時のこと

始めてひとを殺めた時のこと

溢れるように出て来て、止めようにも止まらなくなりました。

それと同時に涙が溢れ、止めようにも‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

森のいちばん奥深く

小さな沼のほとりに辿り着き、

そこで罪人は塀のような崖にもたれて動けなくなりました。

身体は震え、歯をくいしばり、堪え難い記憶の回想を続けます。

幾日も延々と出て来る過去の記憶

なかでもいちばん辛かったのはお母さんを殺した時の記憶

罪人の身体は腐り、内臓が抜け落ち、

だんだん目も見えなくなっていきます。

最後に罪人が見た風景-------------------------

沼の真ん中に波紋が現れ、そこから黒い炎が風になびいていました。

それを見て罪人の目は潰れ、涙が滝に変わりました。

罪人の身体は苔がむしてしまいには岩になりました。

岩になっても、それでも罪人は考え続けます。

「なぜ罪を犯したのか?」

「俺は誰なのか?」

でも、その問いについて考えを巡らせるのは

彼にとって幸せなことです。

なぜならば、それを考え始めたときから、

彼は人間になれたのですから。

ショパン  舟歌 嬰ヘ長調 作品 60

東の順風に乗ってさあ漕ぎ出そう!

森の子供よ

まっしろな帆は希望にはちきれんばかり

喜びの風に乗ってさあ拡がる世界へ!

海の子供よ

私の大好きな君の柔らかいおでこは

どこまでも太陽を追いかけて

風に吹かれて笑いながら

飛沫の虹を浴びながら

桟橋で1度も振り返らなかった君は素敵でしたよ。

青い彼方を見つめる

愛する子供よ

ちいさな舟は大きな海をのしのしと進む

途中もしも渡り鳥が船の舳先に羽を休めに来た時は

君が元気でいる事を伝言してください

君は旅先で多くの事を学ぶでしょう

人がなぜ生きていけるかなんて

いつか海が教えてくれるでしょう

森の子供よ

海の子供よ

スクリャービン 24の前奏曲 作品11

春の雨は

私の肩にこびりついて固まった

遠い想いを的確にリズミカルに叩き、洗い流す

まずはふやけさせ、

油断したところをたちどころにはじき飛ばす

遠い想いは悲しげに大地に染み込む

まどろんで赤ん坊のように

子守唄は森を揺する風

怯えて硬まる蕾を揺する風

遠い想いは腐敗し

濾過され水になる

新しい水に

新しい水に

新しい水に

大地の心臓から芽生える水

上方へ伸びる

次々と

そこかしこに

ショパン 夜想曲 第2番変ホ長調 作品9の2

ひとつの旅の終わりに辿り着いた

長く連なる砂浜の

ハマヒルガオのすぐそばに

私と貴女のための小さな焚き火

一緒に手をかざし

いろんなお話を 学びを 喜びを

貴女は私に授けてくれました

私がいちばん美しいと感じるものは

全て貴女につながります

私がいちばん尊いと感じるものは

全て貴女につながります

寄せては返す波の3拍子

滑らかに静かに

櫓を漕ぐ波の3拍子

どうか一緒に唄ってください

終わりのない歌を

遠くに見える小さな焚き火

何やら楽しそうにお話するふたり

青い帳に包まれて

いつまでも温かい焚き火

どうか一緒に

どうか永遠に終わりのない歌を

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18

宇宙よ、なぜですか

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